私の忘れ物・*:.。 【創作寓話】by よつくま



忘れ物はありませんか?
もしくは忘れてきたものはありませんか?

日々に追われる生活の中でそれは置き去りにされているのかもしれません…

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これはちょっと生活に疲れた時に見て欲しい家族の絆のお話。



忘れられた留守番電話


とにかく日々が忙しかった…
家にいる時間は殆どない。


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今日もパソコンに黙々と手をやる…
無機質なカタカタというキーボードの音が響いている。

本当に響かせたいのは何?

彼女の名前はフィフラといった。
もうそれなりの年齢になっていた。
食事もおろそかに仕事に打ち込み…いや打ち込むことで何かを忘れたいのか。

もう街もクリスマス一色な季節。
自宅のピアノのそばにある留守番電話に一本の留守電が入っていた。

今日も家に帰らない彼女には知る由もない…。



フィフラがその事を知ったのは留守電が入ってから3日ほど経っていた。

父、アレクシが亡くなった。

「そっか…」

と一人つぶやいた。
信じられないほど気持ちが動かなかった。


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実家にはもう何年も帰っていない。

父アレクシはぶっきらぼうな人だった。
そして極めて古風で、PCやモバイルなど到底無理な堅物…。
そんな記憶しか思い出さなかった。

私が街に出ると言った時も…

「そうか」

とだけだった気がする。


留守電を入れてきたのは母のミラ。

「一度くらいお父さんに挨拶なさい」と入っていた。

母はピアノ講師をしており、その影響からか私もピアノを始めた。
よくあることだ。
そう…とっても普通の事。



小さな想い出


結構頑張ってピアノを練習した。
村の小さなコンクールで優勝をしたりした…気がする。

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もちろん街に出ていくつかの大会に出たりもした。

予選落ち
予選落ち
6位
7位
4位
予選落ち…

まぁそんなもんでしょ。


村の大会で優勝したからって街では…ましてそれで食べていくなんて。
到底才能の限界ってものがあるの。

家のピアノも埃をかぶっていた。
早く処分をしなくちゃって思いながら…今の所まだ出来ていない。



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あれはいつだったっけ?
そんなに遠くない過去。

私は夜にアルバイトがてら、ピアノを弾かせてもらっていた。
小さなお店で店員をやろうと応募して…
どういうわけかピアノを弾く流れになった。

その時声をかけられたことがあった。

「応援するよ!」
「頑張っているんだって?」

見知らぬ顔だったのでとりあえず笑顔でごまかしたっけ。


最近ではその店も辞めて…
ピアノに触れることもなくなった。

母ミラからの留守電の最後に
「とりあえずクリスマスには来るように」
と入っていた。


おそらく無理。

回答はしていない。
きっと仕事をしているだろう。
いつものように何かを忘れるように…



イブの邂逅


イブの夜。
仕事を終えて今日も22時をすぎる頃…

ふと聴こえてきたピアノの音に小さなお店に入った。

私の他に2、3組のお客しかいなくて、お世辞にも綺麗なお店ではなかった。
でも何故かその店に入りたくなった。

少し食事をして帰ろうと思ったのだ。


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22時30分頃。

しばらくお酒を飲んでいると、私の斜め奥の角の席に老人がいることに気がついた。
それまで気が付かなかった…
ただでさえ暗い店にみすぼらしいグレーの服が溶け込んで…
髭を蓄えた老人のようだった。

ふと目をそらした瞬間!

「ちょっといいかね?」

私の斜め前にその老人が座っていた…


!!


ぎょっとした…


「な、いったいなんですか?」


髭のある口に手を当て、静かにと言っているようなリアクションをした。


その瞬間だった!


頭にいろいろなことが流れ込んでくる…



ベッドに寝かされている赤ちゃんだ…

「この子の名前はフィフラ」
「ナナカマド」って意味だ。

魔除けの意味もあるけど、ナナカマドは何回燃やしても燃えないんだ。
きっと災厄から守ってくれる。
力強い声がする…


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「上手ねフィフラ」ミラの声かな?

頭を撫でられている子供…私??

「この歳でピアノを弾けるなんて天才じゃないか?」え!この人アレクシ??
両脇を抱えられて高い高いされている。


お父さん…笑ってる ミタノヒサシブリ…


「私ね…ピアノで一番になる」…。

「私ね、パパとママにたっくさん弾いてあげるね」 やめて!

「私、街にでて試してみたい…自分でどこまでやれるか」 無理よ!

「メールくらい覚えてよ!忙しいのに電話してこないで!」 いやっ!

「なぁミラ…そのメールってどうやるんだ?」 ……。

「私達は最後まであなたの味方よ」 !?


はっと我に返ると老人は消えていた。


思わず時計を見る…

22時31分

どういう事なの?
私は一人キョロキョロと周りを見渡したが特に変わったこともなかった。


クリスマスメドレーが演奏される中、私は足早に家に戻った。



故郷へ…


「え?休む?困るよ急に…」


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次の日の朝
私は列車に乗っていた。

何年も帰っていない
いや…帰れていない実家へ。

実は夕べのことはほとんど覚えていなく…
気がついたら家にいた。


「ナナカマド」
「ピアノ」
「メールどうやるんだ?」


それ以上に父の笑顔
母の言葉だけが残っている。

「サイゴマデミカタ」

数時間の列車を降り更に列車を乗り継ぐ…


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久しぶりにここに来た。

私は
「ピアノで有名になる」とだけ言い残して街へ出た。

実家に帰らなかったんじゃない…
帰れなかったんだ…恥ずかしくて、悔しくて…

結局投げ出した自分に。


「来たのね」とだけミラは言った。

コクンとうなずく私。


「こっちにいらっしゃい」


言われるがままに家に入る。
あの頃のままで何も変わっていないのに、別の家のように感じた。


「お父さんの部屋よ」


え?

父のデスクには一通りのPCが揃っていた。

「だってお父さんメールの一つも…」

促されるまま開かれた画面を見た。
PCの画面を見た私は画面が歪んでいくのを感じた。

「お父さん…お父さん」

ミラは私をそっと抱きしめてくれた。
少し痩せたかもしれない手、でも温かくて…嬉しかった。



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少し落ち着いた私を見てミラはそっと喋りだした。

「お父さんね、あなたが出ていって随分落ち込んじゃってね」

「寂しいものだから電話して怒られちゃって」 あ…


「メールを教えてくれって私に頼んだの」
「結局覚えられなかったけど…向いてないのね」


「その後ね、必死に本を読んで勉強して」
デスクには【初心者向けのPCの使い方】や【始めようインターネット】などの本があった。


「さっき見たSNSのサイトを作ったのよ」

「娘を応援して下さい」
「見かけたら聞いてやって下さい」てね。

あの時の見知らぬ人たちそれで…お父さん。


お茶を一口飲んでミラはふぅと息を吐いた。

「あの人は無口で誤解を産みやすい人だったけど、誰よりもあなたの味方だったわ」


アレクシの座っていた椅子を見ながら。

「そうそう、あなたの名前の由来しってる?」


知ってると答えた。


「ナナカマド」は魔除けで何回燃やしても燃えないんでしょ?


「あらよく知ってるわね!」ちょっと驚くミラ。


「お父さんがどんな道を進もうとも災いから守ってくれるようにって」

「あの人三日三晩悩んで選んだんだから…」
「自分は病気に勝てなかったけどね」

ミラの笑顔は少し寂しそうに見えた。


色々な話をした。
その中には知らないこともあった。



その夜は家族3人で厳かに過ごした。

父の座っていた席…
何故か父が好きだったタバコの匂いがした気がした。



私の忘れ物



翌朝父の墓へ

手紙を書いて置いてきた。
なんだか恥ずかしくて仕方がなかった…


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大嫌いだったタバコの匂い

「このタバコ…好きだったでしょう?」
「だから止めなって言ったのにさ…」

「…バコばっかり吸うから死んじゃうんだよ…」

タバコはジュッと音を立てて煙をくすぶらせていた。



私は街へと戻った。

手には父の作ったタバコの匂いのするノートを持って…

そこには私の6位とか7位とか小さく名前が乗っている記事が貼ってあった。
不器用な父らしくアナログなやり方で。

汚い字で
6位入賞おめでとう!

なんて書いてあって…結局アナログじゃない。


SNSのページは私が引き継ぐことにした。
その経緯を記した投稿にはそこそこの反応があった。

今日はその投稿の返信から
「うちで弾いてみませんか?」と言ってくれたお店にいく予定になっている。


正直どこまでやれるかわからないし、母を一人で実家に置いておくわけにもいかないから…


でも母が帰り際に言ってくれた

「私達は最後まであなたの味方だから」という言葉を胸に…

父が残してくれたこの名前と共に私は生きていく。

本当に響かせたい物を取り戻したから。




FIN•*¨*•.¸¸♬





どれもオリジナル作品です










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